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札幌家庭裁判所岩見沢支部 昭和62年(少)225号 決定 1987年5月21日

少年 T・O(昭47.11.17生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

1  非行事実

少年は、窃盗で3回、家出で1回の補導歴を有するものであるが、

(1)  昭和61年9月ころから、中学校の同級生らに対して命令的態度を示し、これに従わない場合は、暴行を加えたり、又は他の生徒に命じて無理矢理暴行を加えさせることが多数回に及び、

(2)  昭和62年1月8日岩見沢児童相談所に一時保護されたが翌日逃走し、同月19日再度保護されるも同月24日再度逃走し、翌日連れ戻されたものの、夜間職員に対し威嚇的態度で外に出すことを要求するなどしたため、同月27日一時保護を打ち切られ、自宅に戻つたが、

(3)  その後も、家出、無断外泊を繰り返し、同年4月14日から札幌及び東京方面に家出し同月26日警察署に保護されたが、その際、父親の預金通帳、印鑑を持ち出して同人の口座から19万円余りを引き出し、父親所有の普通乗用自動車を持ち出し無免許運転するなどしており、

このまま放置すれば暴行、窃盗、無免許運転などの罪を犯す虞がある。

2  適条

少年法3条1項3号イ、ロ、ニ

3  処遇理由

少年は、昭和58年に両親が離婚した後父、母、親戚宅を転々とし、昭和60年5月から父と二人で生活しているが、昭和61年9月(中学2年)ころから、学校内で自己の思いどおりにならないことへの反発などから前記1の(1)のとおりの行動に及び、教師に指導されるとその都度表面的な謝罪はするものの、反省は薄く同様の行為を繰り返し、その回数は約20回にも及び、同年11月下旬以降は教師の規制などに反発してほとんど登校しなくなり、そのため昭和62年1月に児童相談所に一時保護されるも、自己の思いどおりにならないことを嫌い、前記1の(2)のとおり2度にわたつて逃走するなどして、自宅に戻るも、同月末ころ精神科医から「心因反応、てんかん疑のため1ヶ月間の自宅療養及び通院を要する」との診断を受け、学校の了解のもとに登校せず自宅療養することとなつた(この診断は、少年をそのまま登校させてもトラブルが発生するおそれがあることから、そのような事態を避けるためになされたもので、必ずしも病気の治療を目的としたものではない。)。しかし、少年は、右自宅療養の間も、校外で同級生から金員を脅しとつたり、家出、無断外泊を繰り返したり、父から体罰を受けたことに激昂してつるはしを持ち出し同人所有の自動車のフロントガラスを叩き割るなど行状がおさまらず、同年4月の新学期から再び登校することとなつたが、わずか3日間登校しただけで、同月14日学校の指定外の学生服を購入し父に叱責されたことから体罰を恐れて前記1の(3)の家出に及んだものである。以上の少年の非行は、未だ家庭及び学校の枠組みを大きく逸脱するまでには至つていないものの、拡大、深化の傾向が顕著である。

のみならず、少年の性格は、幼児性が顕著であり、自己中心的で他への思いやりに欠け、自己の欲求が聞き入れられない場合は短絡的反応を示すことが多く、忍耐心に欠け、社会性が極めて未熟であるところ、本件の虞犯は、これらの少年の性格的要因に由来するもので、その根は深いといわなければならない。

少年は、本件により観護措置決定を受けたが、少年鑑別所での生活を通じてもその内省は極めて不十分である(殊に、少年は、前記1の(1)記載の暴行等については、その都度謝罪したから今更反省する必要はないとの態度に終始している。)うえ、学校の各種の規制については激しい感情的な反発を示しこれを遵守する意欲を見せていない。

さらには、少年と同居し事実上その養育監護にあたつている父親は、日頃は少年を放任し、何か事件を起こすと体罰を加えるだけであり、少年に対しその問題点を指摘して反省を促すなどの適切な指導を施すことができず、少年の前記性格を助長し家出等を誘発するのみであり、その監護能力はほとんどなく、また、少年の親権者である母親は、父親との接触を恐れて少年の引き取りを拒絶しており、他に有効な社会的資源も見出し得ないところである。

このような、非行の態様、少年の性格、少年の内省の欠如や見るべき社会的資源のないこと等を考慮すると、少年につき在宅の処遇を選択することは、たとえ専門家の指導に委ねたとしても、短期間のうちに学校内で不適応をおこし新たな非行に及ぶ虞が極めて強いといわなければならない。したがつて、少年の健全な育成を期するためには、現時点において少年を一定期間施設に収容して、統制された環境の下で自己の性格及びこれまでの行為を十分に内省されるとともに、社会性を身につけさせるため強力な働き掛けを行う必要があると認められる(前記認定の少年の学校及び児童相談所での行状〔特に児童相談所から短期間のうちに2度も逃走していること〕などに照らすと、教護院での処遇は困難であり、少年院送致が相当である。また、少年の性格に照らし、その矯正には相当長期間を要するものと認められるので、一般短期課程での処遇は不相当である。)。

なお、本件各虞犯保護事件のうち、昭和62年少第224号事件は岩見沢児童相談所長からの送致にかかるもので、同第225号事件は赤歌警察署警察官からの通告にかかるものであるが、当裁判所は先に受理した224号事件の送致に基づき前記非行事実(虞犯)を認定したが、225号事件の通告の内容は前記認定の虞犯と同一であるから同事件については少年を処分しないこととする。

よつて、少年を初等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 瀧澤泉)

〔参考1〕 通告書

通告書

札幌家庭裁判所岩見沢支部裁判官殿

昭和62年4月27日

○○警察署

警視 ○○

下記ぐ犯少年を発見したので少年法第6条の規定に基づき通告する。

少年

本籍

空知郡○○町××番地

保護者

住居

○○市字○○×番地××

住居

○○市字○○×番地××

職業

および

勤務先

無職

勤務先

または

学校

○○市立○○中学校(3年×組)

氏名

T・Y(54才)

ふりがな

氏名

T・O

少年との

続柄

実父

生年月日

昭和47年11月17日生

連絡先

電話 局××××番

※ 少年の年令については、昭和62年4月27日○○市役所戸籍係( )に照会確認

審判に付すべき事由

<適用法条>少年法第3条第1項第3号<イ><ロ>ハニ

<事由>別紙のとおり

少年の処遇に関する意見

・保護観察 ・<少年院送致><初等、中等、特別、医療)

・教護院送致 ・その他( )

警察措置

・<保護者連絡>・<学校連絡>・職場連絡

・その他( )

参考事項

1発見の端緒・警察官現認 通報(<保護者>・学校・雇用・通行人)

2非行歴 窃盗の補導歴3回あり

3添付資料・少年の供述調書 その他(保護者・教師の供述調書)

4その他家出人捜索願受理票、保護カード

担当者

課 防犯係 職 巡査部長 氏名 ○○

電話×局××××番 内線××番

別紙

審判に付すべき事由

少年は、○○市立○○中学校3年生に在学中の者であるが、これまでに窃盗の補導歴3回、家出の補導歴1回を有しており、昭和62年1月岩見沢児童相談所に収容されたが2度脱走するなどの行為を繰り返していたが、

1. 昭和62年4月14日から家出をして札幌、東京方面へ遊びに行き、4月26日○○署で保護され、

2. 上記家出の際、父親所有の預金通帳と印鑑を持ち出し銀行において換金行為をしたり、また父親所有の普通乗用自動車を無免許運転行為をするなどしたり、

3. タバコは中学生になってから吸うようになり、補導された今回もライターを所持するなど喫煙を繰り返していた。

等、正当な理由なく家庭に寄りつかずかつ保護者の監護に服さない性癖があり、母が離婚していなく父が酒乱癖があり少年を放任状態であるところから、十分な監護が望めず、少年の性格及び現在の環境からも専門機関による指導が必要であり、保護観察処分が相当と認められる。

〔参考2〕 抗告審(札幌高昭62(く)10号昭62.6.18決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年提出の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

一 所論は、要するに、原決定が虞犯の非行事実として認定した事実のうち、中学校の同級生らに暴行を加えたりした事実については、反省し、相手方に陳謝してその宥恕も得ており、その後同級生らに暴力をふるつたこともなく、既に落着していたのであるから、虞犯性のある非行事実とはいえないのに、原審がこれに虞犯性を認めたのは、決定に影響を及ぼす法令の違反ないし重大な事実の誤認があり、また、右の事実を除いたその余の家出、自動車の無免許運転などの非行事実をもとに考えると、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というものと解される。

二 そこで、記録を調査して検討するに、

少年は、現在、中学3年生であるが、両親が離婚しているため、父親と2人で生活していたところ、昭和61年6月、中学2年生当時、父親が炭鉱事故の際の怪我の後遺症の手術のため入院し一時不在となつたころから素行が悪化し、原判示のとおり、同年9月ころからは校内で同級生に暴力をふるうなどの不適応行動が著しくなり、同年11月下旬以降は学校側の指導に反発して殆ど登校せず、昭和62年1月、岩見沢児童相談所に一時保護され補導をうけたが、これにも反発して逃走を繰り返し、児童相談所の指導にも従わないため一時保護を解除され自宅に戻つたものの、その後も素行は治まらず、無断外泊を繰り返し、同級生から金品を脅し取るなどし、3年生に進級した同年4月中頃には学校指定外の学生服を購入して父親から厳しく叱責されたことから、父親の預金通帳等を持ち出して家出し、その後自宅に舞い戻り父親の自動車を無断で持ち出して運転免許のないまま乗り回し、その車内に寝泊まりするなど無為に過ごすうち、十日余りして警察官に発見、保護されて、虞犯少年として札幌家庭裁判所に通告され、これとは別に、児童相談所長からも同級生らに暴行を加えたこと、児童相談所の一時保護に従わず逃走したこと、家出を繰り返し、親の監護に従わず、家から現金、預金通帳などを持ち出したことなどの理由により虞犯少年として送致された事情が認められる。加えて、少年は、昭和60年中に家出、オートバイ盗などで計3回、昭和61年4月には万引き盗で1回、いずれも警察官から補導されたことが、記録上認められる。

そして、以上のような少年の非行発現の状況に、少年の家庭、学校等、少年をとりまく周囲の事情、すなわち、小学4年生のころ両親が離婚して以来、少年は、母親、父親、父親の兄弟、祖母などのもとを転々することを余儀なくされ、中学1年生のころからは父親のもとで生活するようになつたものの、父親は炭鉱事故の後遺症で稼働できず、労災年金を得て細々生計を立てており、無聊を慰めるためか飲酒の機会が多く、日ごろは少年に甘く放任的であるが、少年が問題を起こすと激しく叱責して体罰を加え、少年の家出を誘発するという事態を繰り返しており、少年の監護養育に一貫性を欠き、持て余している状態にあり、向後とも少年に対する適切な指導監督は期待し難く、他方、母親は少年に対して親としての義務感は持つているものの、その生活状況に照らし、現時点においては少年を引き取つて監護養育することは事実上困難であると認められ、また、学校当局、児童相談所とも、これ以上在宅のまま少年の補導を継続することは著しく困難な状況にあり、他に有力な在宅保護のための資源を見いだせないこと、及び、少年自身の性格傾向、すなわち、知能は普通域の下位にあり、社会生活に適応するための基本的な能力は備えているが、両親が離婚してから現在まで、家庭で適切な躾教育をうける機会に恵まれなかつたこともあつて、その性向、行動とも多分に幼児性が認められ、依頼心が強く、自己中心的であり、抑制力に乏しいため短絡的行動にはしり易く、反面、多少とも解決困難な場面に遭遇すると安易に回避しようとする傾向が顕著であることなどを、合わせて考慮すると、その非行は未だ家庭及び学校の枠組みから大きく逸脱するまでには至つていないけれども、今後、加齢とともに拡大、深化する傾向が認められ、このままでは、将来、暴行、窃盗、無免許運転等の罪を犯す虞れがあることは、原決定が適切に判示するとおりである。

三 しかして、少年のこのような非行性を矯正するためには、在宅保護の方法によつて成果を得ることは困難であり、施設内における専門的な矯正教育が必要であると認められるのであつて、少年を初等少年院に送致する旨の原決定の処分は相当として是認することができ、これが重すきて不当であるとはいえない。

所論は、同級生に対する暴行等の非行については、反省、陳謝し、その後反復していないから、これを虞犯性ある非行事実として取り上げるべきではないと主張するのであるが、原決定も指摘するとおり、少年は同級生に暴力をふるうなどの非行の度ごとに教師らから説諭、指導をうけながら、その場限りの謝罪を繰り返えし、真摯な反省がないまま同種の非行を多数回にわたり行つたことは、記録に明らかであり、このような少年の度重なる行状に徴すると、原審が前示の非行を虞犯性のある非行事実として認定したことは当然であつて、原決定に所論指摘の法令の違反ないし事実の誤認の廉はなく、論旨は理由がない。(なお、所論は、家出及び無免許運転の事実についてのみ虞犯保護事件が原審に係属していることを主張する如くであるが、前示のとおり、原審に係属したのは右にとどまらず、同級生に対する暴行等の事実及び児童相談所の一時保護に服さず逃走した事実についても児童相談所長からの送致によつて虞犯保護事件が原審に係属し、合わせて適法に審判されたことが記録上明らかである。)

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項後段、少年審判規則50条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 水谷富茂人 裁判官 高木俊夫 肥留間健一)

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